私と母は、昔から「お母さんと仲いいよね」と言われることが多いのですが、実はけっこう根深い確執があり、そのわだかまりは今も続いています。

私は幼少以降同居の母方祖母から、私が家を出る22歳まで、かなり陰湿で豪快な虐めを受けており、長年、血縁や人格を否定されるような暴言に苦しんできました。
母には何度もSOSを出したのに、母は世間体や仕事を理由に介入もせず、逃げ場がない思春期を過ごしました。

母娘仲に関しては、私が実家を出てから、物理的な距離もあって少し改善されましたが、親に対して「助けを求めたのに対応してもらえなかった」という不信感は、後を引くものです。
(母には母の事情や言い分があると思いますが、今話し合っても理解できないのでたぶん一生無理でしょう)

社長令嬢として生まれ、結婚前は実家に・結婚後は夫の収入に守られながら金銭的に不自由ない生活をし、東京23区から一度も出たことがない母。
彼女なりに苦労しサバイブしてきた背景は知っていますが、ごく限られた環境範囲で育ち生きてきた彼女に『普通』や『常識』を語られると、物を申さずにはいられないことも。

母が考える『普通の社会人』は、高度経済成長期に築かれた旧日本式サラリーマン家庭の象徴のようで「毎朝スーツを着て電車で通勤することができない人間はアウトローで社会不適合者だ」といった発言を度々耳にします。
その度に「今の日本で『普通に』仕事をしている人がどれほどの割合で、その生活にどれほどのメリットがあるのか、イメージや感情ではなく統計を鑑みて発言すべきだし、そもそも電車が通勤ツールじゃない地域なんて五万とありますよ(あなたが知らないだけで)」と言いたくなる。(たまに言っちゃう)

あと、この年代の人って税金・福祉・政治などについて、異常に無知・無関心な人多くないですか?
民間企業のマンパワーで生き抜いてきた世代だから???(ひとくくりにしてスミマセン)

母はなにかしらにつけ自助努力を誇るのですが、自助努力レベルは他人と比べるものではないし、生まれた環境や性質で底上げされているものだと謙虚に自覚して欲しい。
一緒に仕事をしていると「60にもなるんだから、個人の努力では埋めきれない格差社会を問題視するとか、広い視野を持ってよ」などと思うわけです。

そんな背景があり、祖母・母・私と、三世代にわたる女の確執を抱えてきたため、第一子妊娠直後は「胎児が女だったらどうしよう」と毎日怯えていました。

「女の子を産むのがこわい」「娘とうまくやれる気がしない」「もしお腹の子が女児で、将来殺し合いになったら必ず介入すると約束してくれ」と夫に泣きつき、
第一子のエコーで産婦人科医から「男の子だね!」と言われたときは、大袈裟ではなく本当に心の底から胸をなでおろしました。

その後、第二子は女児=娘だったわけですが、妊娠中は戒めのために毒親の本を読み漁り。
生まれてきた瞬間、娘の顔が私や母とはかけ離れた可憐な顔立ちをしていて
『これは私や私側親族の女達とはまっっったく別の生き物だ……ああ、よかった』と、謎の安堵に包まれたことを今も強烈に憶えています。

今や4歳になった娘は、日を追うごとに私に似てきており、心から愛おしく想う反面、いつか訪れるかる思春期や母娘バトルを恐れる気持ちは消えません。
その恐怖もあり、娘とは意識的に距離を持ったり、俯瞰的・男性的な目線を常に持つよう気をつけています。

そんな中でみつけた興味深い本を紹介します。
母娘間の確執に悩んでいる本人のみならず、父親や兄弟児にこそオススメの本です。

この本は、男性で精神科医である斎藤環先生が、母娘問題について発信・表現してきた各有識者との対談内容を残したものです。
その対談相手が超豪華で、それぞれの考察が深く、興味深いです。

■田房 永子
漫画家。代表作は私の愛読書『母がしんどい』(角川文庫)/『キレる私をやめたい』(バンブーコミックス エッセイセレクション)著者。
母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイが傑作。

■角田 光代
言わずもがなの有名小説家。『空中庭園』『八日目の蝉』など娘母の描写が巧。

■萩尾 望都
漫画家。かの有名な『イグアナの娘』の著者。

■信田 さよ子
臨床心理士。専門は臨床心理学で『原宿カウンセリングセンター』初代所長。
母娘問題について提起した『母が重くてたまらない──墓守娘の嘆き』(春秋社)など。

■水無田 気流
詩人、社会学者。


特に目から鱗だったのは、斎藤環先生の「母娘の関係性が特殊なのは、双方が『女性の身体』を共有しているから』というところ。

女性同士は身体だけではなく社会背景や歴史(ジェンダー・バイアスに対する葛藤など)も共有しているんですよね。
そのストレスや不安が共鳴して不協和音になるというか、母娘の過干渉や抑圧、同一化に繋がるんだと改めて腑に落ちました。

信田先生の「男性の視線で娘を見ている」という発言に激しく共感。
信田先生と斎藤先生の掛け合いが面白すぎます。

母が重くてたまらない 墓守娘の嘆き
信田 さよ子
春秋社
2016-08-30



そして、本書を読んで改めて田房さんが好きになりました。
問題解決のために自分にトコトン向き合う姿勢、トライ&エラーを繰り返す強さ、俯瞰性がツボすぎです。